【登場人物】
• 教師(35歳・男性):黒野慧(くろの けい)
• 生徒(13歳・中学生女性):星井雫(ほしい しずく)
【シーン】放課後の教室。窓際に夕陽が差し込む中、黒野が書類整理をしている。星井が椅子に座り、ため息をつく。
先生、どう思います?短期的な快楽って、意味がないんですかね?

星井雫

黒野先生
突然だな。何かあったのか?
友達に誘われて、ゲームに没頭したんですけど、終わった後なんか虚しくて。『これで良かったのかな』って思ったんですよ。

星井雫

黒野先生
そうだな。それはよくある話だ。短期的な快楽には、持続性がないことが多いからだろう。
持続性、ですか?

星井雫
持続性の欠如
短期的な快楽は、瞬間的な満足感を得られるものの、持続しないことが多いです。
たとえば、衝動買いや暴飲暴食などは、その瞬間には満足感を与えますが、後には虚しさや後悔を招くこともあります。これに対して、長期的な目標達成や成長から得られる満足感は、より深く、長続きします。

黒野先生
そう。たとえばゲームでその時は楽しくても、しばらくすると、その楽しさは消えてしまう。それに比べて、勉強や趣味で何かを成し遂げたときの満足感は、ずっと心に残ることが多い。
でも、なんで人って短期的な方を選びがちなんですか?

星井雫

黒野先生
それは脳の仕組みによるものだ。人間の脳は『手っ取り早い報酬』に敏感だからな。だから、ゲームやお菓子みたいな短期的快楽に飛びつきやすい。
なんか損した気分です。でも、短期的快楽ってそんなに悪いものなんですか?

星井雫

黒野先生
悪いとは言わない。ただ、短期的快楽に依存すると、もっと大事なものを犠牲にすることがある。たとえば、テスト勉強をサボってゲームばかりしていると、将来の選択肢が狭まるかもしれないだろう?
うわ、それ耳が痛いです…。確かに昨日、ゲームしてたせいで宿題できませんでした。

星井雫
目標や価値の阻害
短期的快楽にとらわれすぎると、長期的な目標達成が難しくなることがあります。
例えば、夜更かしして動画を見続ける快楽を優先すると、翌日集中力を欠いて仕事や勉強が疎かになる。結果として、長期的な成功や充実感を犠牲にしてしまう場合があります。

黒野先生
短期的な快楽を楽しむこと自体は悪くない。大切なのは、長期的な目標や自分の価値観とのバランスを取ることだ。
でも先生、そういうのって大人だから言えるんじゃないですか?私たち中学生には、長期的な目標とかあんまりピンとこないんですよ。

星井雫

黒野先生
それもそうだな。じゃあ、雫にとって今一番大事なものは何だ?
えっと…友達と遊ぶこととか?

星井雫

黒野先生
いい答えだ。それなら、友達ともっといい時間を作るために、ゲーム以外の方法を考えてみるのもいいんじゃないか?共通の目標を作って一緒に取り組むとか。
確かに…友達と何か頑張るのも楽しいかも。じゃあ、短期的快楽も悪くないけど、工夫次第で意味のある時間に変えられるってことですね?

星井雫

黒野先生
その通りだ、雫。
快楽の依存性
短期的快楽は習慣化しやすいです。
脳が「手っ取り早い報酬」を求めるようになり、より大きな満足感や目標に向けた努力が面倒に感じられるようになることも。
これが、自己成長や健全な幸福感を妨げる原因になることがあります。
先生、ちょっと見直しました。

星井雫

黒野先生
おい、今まで俺をどう見てたんだ。
ただの地味な先生だと思ってました!

星井雫

黒野先生
地味な先生か…。まあ、否定はしないけどな。でも、こう見えて俺にも若い頃は短期的な快楽に振り回されたことがあるんだぞ。
えっ、先生が?全然想像できないです。何やったんですか?

星井雫

黒野先生
そうだな…大学時代、試験前になるとよくゲームをやってたんだ。レポートの締め切り間際なのに、夜通しオンラインゲームに熱中してな。
えっ、先生もゲームやってたんですか!しかも夜通しって、なんか意外。

星井雫

黒野先生
そうだ。友達とチームを組んで、全力で戦ったりした。でも、その結果、提出期限ギリギリまでレポートを書き上げる羽目になって…睡眠不足で授業中に倒れたこともある。
ええっ、倒れたんですか!?先生、意外と無茶するタイプ?

星井雫

黒野先生
いや、当時は無計画なだけだったな。その経験で学んだんだよ。短期的な楽しみは、その場では気持ちいいけど、あとでツケが回ってくることもあるって。
…それ、今の私そのものかも。ゲームにハマるのもいいけど、そのせいで宿題とか睡眠時間を犠牲にしちゃってるし。

星井雫

黒野先生
そうだろう?だからと言って、短期的な快楽を完全に否定する必要はない。ただ、その後の自分にどう影響するかを少し考えるだけで、選択が変わることもある。
じゃあ先生、その後どうやって短期的快楽とうまく付き合うようになったんですか?

星井雫

黒野先生
そうだな…それからは、自分にルールを決めるようにした。『やるべきことを片付けたらゲームしていい』とか、『時間を決めて切り上げる』とか。それが意外と効いたんだ。
ふーん、ルールか…。でも、それって意志が強くないとできなくないですか?

星井雫

黒野先生
確かに最初は難しかったよ。でも、少しずつ慣れていくものだ。それに、自分で決めたルールを守れたときは、少し誇らしい気持ちになれる。それが長期的な満足感にもつながるんだ。
なるほど。じゃあ私もやってみようかな…何か簡単なルールから始めて。

星井雫

黒野先生
いいぞ。無理のない範囲で、楽しみながらやるといい。
先生って、本当は地味じゃないのかも。なんかカッコいい気がしてきました。

星井雫

黒野先生
褒めてるの貶してるのかわからんな。
もちろん褒めてます!でも、ちゃんと宿題出さないと説得力ないって言われそうだから、今日の夜はゲームの前に宿題やります!

星井雫

黒野先生
それは名案だな。短期的快楽とうまく付き合う第一歩だ。
はい!先生、ありがとう!それじゃあ、また明日!

星井雫

黒野先生
ああ、また明日な。
(星井が笑顔で教室を出ていく。黒野は窓の外を眺めながら、昔の自分を思い返すように静かに微笑む。)

黒野先生
短期的な快楽に溺れた過去も、今ではこうして役に立つんだな。無駄な経験なんて、実は一つもないのかもしれない。
(教室には夕陽が差し込み、静かな時間が流れる。)